次の日、つまりクリスマスイブの日。昼飯の後、俺は行くところがあるからと詩織に言い、こっそりとある場所へ行って来た。

 ちなみに詩織は、昨夜から元気がないように思う。おそらく生活環境が変わり、家事を頑張って来たから疲れが溜まっているのだと思う。

 昨夜、俺がアパートへ帰ると、詩織はベッドで眠っていた。可哀想なのでそのまま寝かせていたが、俺が横にもぐると詩織は目を覚まし、健気にも俺に抱いてくれとせがんだ。

 しかし俺は珍しく、と言うより初めてだが、湧き上がる欲望をグッと堪え、詩織を抱きしめるだけに留めた。詩織を休ませてあげたかったからだ。詩織は俺の胸に顔を埋め、すぐにまた眠り始めた。

 野田から言われた俺が詩織の“王子様”だった、とかいう話を詩織としたかったが、それは今度にしようと俺は思った。


 夕方、今日はやけに時間が過ぎるのが遅いなと思っていたら、詩織のスマホに誰かから着信があったようだ。

 珍しいなと思いながら、スマホを見ながら廊下に出て行く詩織を見ていたら、すぐに詩織は俺を振り向き、俺に何かを言いたそうにしていた。そこで俺も席を立ち、廊下に出た。


「あのね、前の会社の友達からメールが来て、今夜ご飯を一緒に食べようって……」


 詩織はか細い声で、申し訳なさそうにそう言った。詩織が申し訳なく思うのは、今夜は久しぶりに外食をしようと話していたからだ。ちなみに、同棲を始めてから俺達は外食をしなくなった。詩織が晩御飯を作ってくれるからだ。詩織は、料理がめちゃくちゃ上手なのだ。


「そっか。それは良かったじゃないか。飯だけなのか?」

「うん、たぶん……」

「じゃあさ、俺はどこかで食って、あのバーで待ってるよ。このあいだ一緒に行ったバー、分かるよな?」

「うん、大丈夫」

「何かあったらメールしてくれ」

「うん、ごめんね?」

「いいって。楽しんで来いよ」


 うーん、ちょっと予定が狂ったが、まあいいか。詩織にはあのバーで言おう。そして、これを渡すとしよう。

 俺の上着のポケットには、昼に買ったある物が、こっそり忍ばせてあるのだった。