『え?今日?…何かあったの?』


ああ、気になる。

相手が誰で、どんな話をしているのか。

話の肝のほとんどを通話相手がしゃべっているせいか、どんなに彼女の発する言葉に集中力を傾けても、いったいどんな話をしているのかは全く分からなかった。


『えっ……嘘。』


途端に、物腰柔らかった彼女の声が、冷たさを帯びた。

あくまで本を読んでいますよという雰囲気を醸し出しながらも、彼女をチラリと見やれば、携帯電話を右耳に充てている彼女の表情は驚きと哀しみを帯びていて。

……何か、彼女にとって訃報に値することを言われているんだろう。

いちいち、こんなにも彼女のことが気になるなんて――…俺はやっぱり、どこかおかしいと思った。


『未來……泣かないで、後でいっぱい聞くから。』


未來?……ってことは、通話相手は女の子か?

いやでも、今時、"未來"なんて名前、男にもいるしなー…。

だけど、"泣かないで"って彼女が言ったってことは、やっぱ女の子か?


『うん。……うん、分かった。外はだめだよ、どうせ未來、潰れるまで飲む気でしょ?私じゃ手に余るって。…うん、いいよ、私の家ね。ご飯は何が良い?』


どうやら、今日は彼女の家で通話相手の慰め会らしい。

通話相手の心を少しでも軽くすることができるようにと、明るく振る舞う彼女がなんとも健気で。


『うん、…分かった。作って待ってるから。』


そう言って、彼女は電話を切った。