小島のやつ、もしかして詩織と小学校の時に同じクラスだった事に気付いたのだろうか。だから詩織に聞いたのだろうか。

 それはまずいぞ、詩織。うまくごまかすんだ、詩織!

 そんな念を俺は送ったが、詩織は無表情な顔で小島を見ており、残念ながら俺の念は彼女に届いてなさそうだ。

 ちなみに詩織は、会社では非常に無口になった。表情は常に堅く、暗いというのではなく、クールな感じだ。

 俺は今まで、詩織という女性は、表情が豊かですぐに泣いたり笑ったりするし、冗談っぽい事も言うし、普通か普通以上に明るい女性だと思っていた。

 しかし、本来詩織は、今のような態度で10社もの会社を渡り歩いて来たのかもしれない。周囲に壁を張り、それ以上の侵入を許さない、みたいな。可愛いのにクール。容易には近付けない女。

 逆に言えば、詩織が本当の姿を見せるのは、俺限定という事だと思う。そうか、そうだよ。俺限定。いい響きじゃないか。可愛いやつめ……

 あ、野田にもそうだったな。ちぇっ。


「神奈川の学校です」


 と詩織は小島に答えた。なるほど、詩織の家は埼玉から神奈川へ引っ越したわけか。これで小島も諦めるだろう、と思ったのだが……


「なんだ。でもさ、生まれも神奈川か? どこかから引っ越したんじゃないのか?」


 小島め、シツコイぞ!


「埼玉から引っ越しました」


 え? 詩織、それを言うか?


「やっぱりそうか! 川沿いの小学校だろ? 俺の事、憶えてないか? 小島敬太だよ。2年の時、同じクラスだったろ? 俺達……」


 あちゃー。これはまずい事になった、かもしれない。