「わ~~!!先生の車、シンプルだね・・!!」

我が家の車とは全く違う雰囲気の車内に、『大人』を感じた。

ぬいぐるみもなければ、ティッシュカバーもない。

流れ出す音楽は、FMラジオの洋楽。

先生らしい。


シンプルな車内で唯一、私の興味を引いたのは助手席のクッション。

ふわふわのクッションは、複雑な気持ちにさせる。

「先生、彼女の為のクッション?」

先生は、なんて答えるんだろう。

生徒からのこういう質問に、どう答えるかってマニュアルがあるのかな。

一瞬の沈黙の後、先生は笑った。


「あはははは、鋭いなぁ。」

先生は、それしか言わなかった。

気付くんじゃなかった。


せっかくの先生との最初で最後かも知れないドライブなのに・・・。


家になんて帰りたくない。


「先生、遠回りして・・お願い。」

私は、流れる外の景色を見つめながら、聞こえるか聞こえないかくらいの声で囁いた。

「ん??何?」

先生は、目を丸くさせて私の顔、覗き込むんだ。


「帰りたくない・・」

また小声で、わがままを言う。



先生は、信号が青に変わるとスピードを上げて車を走らせる。



聞こえなかったんだね・・。

それとも、聞こえないフリ?


先生の横顔をそっと見る。

前の車のブレーキランプで、赤くなる先生の顔。


「じゃあ、あの時の罰ゲームってことで、夜景でも見に行くか。」


先生は、前を向いたままそう言って、私の家と反対の方向へUターンした。


「そのかわり、お母さんに電話しなさい。」

急に、先生らしい口調になる。

私は、言われるがままに携帯でお母さんに電話をかけた。


先生、ありがとう。

私のわがままを聞いてくれてありがとう。


お母さんとの電話を切ったと同時に、抑えきれず涙がこぼれた。

お母さん、ごめんね。

今日は、お母さんを守ってあげられない。

今日だけ、お母さん一人にしちゃうけどごめんね。