高宮は、ライバル会社のCMみたいな言い方をしたが、正にそれだ。


「その“課長”と言うのはやめてくれないか? 会社じゃないんだから」

「じゃあ、何とお呼びすればいいですか?」

「普通に名前で呼べばいいだろ? 俺はおまえを詩織と呼ぶ。いいだろ?」

「はい。あっ……」


 高宮は、何を思ったのか急にニコッと笑った。つい今しがたは泣きそうだったくせに、表情が豊かな子だな。


「おにいちゃん……」

「…………なんだって?」

「おにいちゃんって呼ばせてください」

「お兄ちゃんって……冗談だろ?」

「いいえ。私の夢だったんです。あなたに会って、そう呼ぶのが」


 また夢?


「お願いします、おにいちゃん。今日だけでもいいですから」


 もう呼んでるし。


「あ。もしかして、おまえも俺と同じ一人っ子か?」

「はい」


 なるほどね。高宮は兄貴がほしかったわけか。なら、言わせてやるか。今日だけ。


「わかった。いいよ、そう呼んでも」

「おにいちゃん、ありがとう」


 俺は高宮に抱き着かれ、押し倒されてしまった。たぶんそのせいだと思うが、その瞬間、目の前がピカピカっと光り、ほんの一瞬だが、何かの映像が見えた気がした。それは小さな女の子、だったような……


 高宮、いや詩織の肩の冷たさで、俺は我に返った。


「おまえ、体冷えてるな?」

「おにいちゃんもね」


 俺と詩織は毛布と布団にくるまり、俺は詩織の冷えた体をそっと抱きしめた。詩織の体は柔らかく、たぶんボディソープのらしい、いい匂いがした。そういった物も、“お泊りセット”に入っていたのだろう。重いわけだ。


「しばらくこうしてようか?」

「うん。暖かい……」

「夢は全部叶ったのか?」

「ううん、あとひとつある」

「そっか。叶うといいな?」

「うん!」


 詩織は俺の胸に顔を埋め、俺は詩織の洗い髪の頭を、そっと撫でてやった。こいつ、明日は寝癖がすごいだろうな。

 詩織にお兄ちゃんなんて呼ばれたからか、俺達はすっかり兄妹モードになってしまった。かに思えたが……

 この後しっかり、俺は詩織のバージンを戴いたのだった。もちろん。