「希彩、ここにいたのだか」


途端に颯の声はワントーン高くなり、だらしない笑顔になる。


あたしはイライラしながら席に座った。


こんな所で会うなんて最悪だ。


偶然会っただけなのに、希彩ちゃんはさっそく颯にベタベタとくっつき、一緒にいる友達にも自慢しはじめている。


「希彩ちゃんのお兄ちゃんカッコいいね!」


「羨ましいなぁ! あたしはそんな彼氏が欲しい!」


「ダメだよ、お兄ちゃんはあたしのだから」


そう言い希彩ちゃんはチラリとあたしを見る。


そして、勝ち誇ったような笑顔を浮かべたのだ。


この……!


思わず怒鳴り出しそうになるのを、なんとか押し込める。


ここで怒れば希彩ちゃんの思うつぼだ。


だけど、これでもう今日のデートはパァだ。


あたしは注文した料理を口に運びながら希彩ちゃんと颯の会話を聞く。


希彩ちゃんは当然のように一緒に遊びに行きたがり、颯は当然のようにそれを受け入れる。


あたしは箸をへし折ってやりたい気分になったのだった。