「千鶴、いるか」


部屋の襖の前に立ち、呼びかける。




「ひ、土方さん……な、なんの御用でしょうか……」


必死にいつもの声を作っているが、明らかな涙声だ。




「入っていいか、いや…入るぞ」


「えっ、えっ、土方さんさん、あの…」



襖を開けようとした瞬間、強い力が手にのしかかる。



「あ?…おい、千鶴、」


「ダメです!開けないで!絶対ダメ……」


「いいから開けろ、なんでダメなんだ」


いくら開けようとしても襖は開かない。


馬鹿力か……?


小さい体にこんな力があるのかと驚く。



「だめ…こんな、顔、見せられません……」


「千鶴、」


もう一度名前を呼ぶと、一瞬力が緩んだ。

その隙に一気に襖を開く。




「あっ、土方さん……!」


千鶴が小さく悲鳴を上げる。



顔を両手で隠し、隅っこでちょこんとうずくまる千鶴を見つけ、そっと近づく。




「千鶴、こっち向け」


「嫌です……」


「いいから向け。副長命令だ」


ビクンと千鶴の肩が揺れる。



「こんな時に、副長命令なんて……ず、るいっ……」


「千鶴」


小さく細い肩を掴み、こっちに向かせる。


黒く結わえた綺麗な髪が揺れ、

沢山の涙を浮かべた瞳が露になる。


綺麗、だと思った。


たまらなく美しく、今にも消えてしまいそうな儚さを感じる。



「やっ………」


顔を背けようとする千鶴の頬に触れる。


腹の中で何かがざわめくような、蠢くような感覚に襲われた。

気づいた時には、白くなめらかな額に口づけをしていた。



「………」


「え……」



ぴたりと千鶴の涙が止まる。


「………」


「土方さん………いま……」



訳がわからないというように千鶴は首を傾げた。



「…お前は特別な存在だ」


「え、でもさっき……」


「あれは……言葉の綾だ」


「言葉の綾……?」


「そうだ、傷つけて悪かった。もう泣くな」


「っ……」


小さな体を引き寄せ、腕の中に閉じ込める。


……勝手だな俺は……


言いたい放題言って、こいつを困らせてばっかりだ。



「土方さん………よかった…」


「……」


「…よかったあ……私、てっきり嫌われたのかと…」


さっきの泣き顔とはうってかわり幸せそうに微笑む千鶴を見て、ホッとする。



特別な存在だ……


こいつの笑顔をずっと見ていたいと想う反面、

他の男には見せたくない。自分だけのものにしちまいたいとも思う。



「千鶴……」


「……?」


「ずっと俺の傍にいろ。いいな?」



俺の言葉に、千鶴が目を見開く。


そして、満面の笑みを浮かべた。これ以上幸せ
ことはないという顔だ。



「はい!ずっと土方さんのお傍にいます!」



「よし」



幸せそうに微笑み合う2人を






ひっそりと襖の向こうで、


「あーあ、くっついちゃった。つまんなーい」


立ち聞きしている沖田さんがいましたとさ。