※沖田さんがちょっと悪め



「土方さんってさ、千鶴ちゃんのことどう思ってるの?」


夕餉が終わり茶を飲んでいる時、総司がなんてことのないように言った。


飲んでいた茶を噴き出しそうになるのを堪える。



「ッなんなんだ、急に」


「いやー?前から気になってたんだよね。土方さんって、千鶴ちゃんに甘いし」


「そんなわけあるか。甘くねえ。普通だ」


千鶴がこの場にいなくてよかった。


こんな話をあいつに聞かせられるか


「たしかに副長は雪村をよく気にかけている。副長は雪村のこと――――」



「斎藤、お前まで……総司、くだらねえことを言うな。こいつまで真に受けるだろうが」


「えー、じゃあ千鶴ちゃんのこと嫌いなんですか」


「は……」



総司の問いに、思わず頭を抱えそうになる。


嫌い……な訳がねえ


が、ここでそんなことを口にしたら総司の思う壺だ。



「あいつは……千鶴は……新選組の秘密を知っちまったから、こっから出してやれねえだけだ。特別な存在じゃない」


「………ふーん、そう。へえ……」



総司がニヤリと笑みを浮かべる。



その視線の先には、





「……すみません、勝手に入ってきてしまって……」


両手で抱きかかえるようにしてお盆を持った千鶴の姿があった。



目が心なしか、潤んでいる。


泣きはしない。でも、無理に笑っているような顔だ。



こんな時、原田や新八や平助がいたらよかったと今更後悔する。

原田と平助は巡察、新八は近藤さんの所だ。



そんなことを考えているうちに、千鶴はすみませんと小さな声で謝り、そそくさと居間を出て行った。



あいつらがいたら――――なんて人任せにしている場合じゃねえな……


千鶴を傷つけたのは間違いなく俺だ。





「あーあ、千鶴ちゃん、泣いてるよ今頃」


総司が菓子を口に運ぶ。今さっき千鶴が持ってきたものだ。


「ったくお前が……」


「なあに?」


「いや、なんでもねえ」


立ち上がり、襖に手をかける。



部屋にいるんだろうな……多分








「……やっぱり好きなんだ」


彼の呟きが、土方に聞こえることはなかった。