「……なんだよ」

「だ、だからっ、手……!手がっ」

「は?手?手が何か――――……っ!?」



本当に。

この人、私のことを言えないくらい、見た目と掛け離れた天然っぷりを発揮するから助けてほしい……


私の精一杯の指摘にようやく意味を理解し、自分がしていたことに気が付いたのか。


恋人繋ぎのように固く握られていた手を慌てて離した日下部くんは、弾かれたように身体を引くとそのまま手の甲で自分の口元を隠した。



「悪い……なんか、無意識で……当たり前に繋いでたから、気付かなかった……」


「っ、」



だから、それ……殺し文句、だよ……


――――夏の夜。

静けさに濡れたこの場所では、お互いの心臓の音だけが聞こえてしまいそうで、胸が、苦しい。



「か……帰るか、」

「う……うん……」



精一杯交わしたそんな会話に続く言葉は、その後、お互い出てくることもなく。


家に着くまでひたすらに、無言で夏の夜を歩いていた……静かな花火大会の、夏の思い出。