胸の音がいっきに騒ぎだす。

絢斗くんはわたしから視線をそらし、歩き出した。

距離が近づく。どんどん近づく。

絢斗くんが低い声を出してくれたから、男子たちがわたしから離れた。

絢斗くんのおかげで……。

どきん、どきん、と鳴っている鼓動。

切ない想い――

絢斗くんはわたしの横を通っていった。

わたしはもう諦めるって決めたばかりだった。

なのに……。

「絢斗くん!」

わたしは絢斗くんを呼び止めた。

立ち止まった彼は振り向く。

「……なに?」

絢斗くんは素っ気ない声をだした。

自分の脈がさらに速くなっていく。

わたしは拳を握りしめて、精一杯の気持ちを込めて言葉を発した。

「わたしとの付き合いは、適当なんかじゃなかったよね?」

それだけ知りたい。

あの時間は適当なものじゃなかったって。

そう言ってもらいたいという、切ない願い。

わたしはまっすぐ絢斗くんを見ていた。

彼は険しい表情になり、わたしから視線をそらす。

「俺は、菜々花と付き合ったこと後悔してる」

「え……?」

絢斗くんの言葉はしっかり聞こえた。

だけど、聞き返したくなった。

絢斗くんはそっと、わたしに視線を向けた。

「菜々花と付き合わなければよかった」