忠告に従い、手元を見ると今にも煙草の灰が床へ落ちそうだ。

あ、やべ。

落としたら片付けが面倒なんだよ。

さっと灰皿を手元へ持って来て、灰を受け止めた。


「なーに? お前も終わってねえの?」


灰皿に灰が落ちるよう煙草をトントンと指でたたき、向かい側へ問いかける。



俺の前に座っている男、名前を高瀬 蓮と言う。


2か月前に、警察庁からやって来た新人刑事だ。

新人と言っても、ヤツはキャリア組。

だから階級的には俺と同じ警部補。


この男、かなりのデキる男で仕事は早いし気転も聞く。

おまけに俺たち男から見てもイケメンで、男らしいヤツ。

署の女性職員たちの多くは高瀬に惚れていると思う。


キャリア組で将来有望。

顔もいいし、性格もいい。

こんな優良物件、女性たちが放って置くはずもないのだが。

女嫌いらしく……必要以上に女性と関わらないようにしている。


もったいない。

コイツならどんなオンナでも落とせるだろうに。



「小笠原さん、ここ禁煙ですよ」

「気にしないしない。喫煙スペースまで行くの面倒なわけよ。数人しか残ってねえし、残業中だから許して、蓮ちゃん?」

「気持ち悪い呼び方やめていただけますか」

「えーかわいいじゃない。れ・ん・ちゃ・ん?」


ニヤッと笑うと、高瀬は呆れたのか怒る気も失せたようで、ため息ひとつを残して何も言わなくなった。