「人聞きが悪いな。僕は彼に全てを教えただけで、復讐の道を選んだのは彼自身だ」

「…………」


それを聞いた黒斗は、大神に向けていたデスサイズの切っ先を降ろした。

無表情を装っていたが、その唇は悔しげに噛み締められていた。



「……復讐を遂げたとしても、失ったものは戻らない。その先にあるのは破滅か、更なる復讐……負の連鎖だけだ。なのに……何故、人間は復讐を止めない…………」

「……君も言っていただろ? これが人間の醜さで悲しい性なんだよ。それに……」


一息ついてから大神は口を開いた。


「君だって、罪人に復讐しているじゃないか」

「……!」


黒斗の真っ赤な瞳が揺れ動く。


「君の罪人達への復讐が、新たに恵太郎くんの復讐を呼んだ…………これは君が作り出した負の連鎖だ」

「…………違う。俺がやっていることは復讐じゃない……罪人が憎くて断罪を繰り返しているんじゃない……ただ自分の“信念”を貫いているだけだ」



“クロちゃん”



黒斗の脳裏に優しい笑みを浮かべる老婆の姿が浮かんだ。


彼女を思いながら、黒斗は真っ直ぐに大神を見つめる。


「…………はいはい。まあ、君のやっていることが復讐だろうが信念だろうが、どうだっていいけどな」


本当に興味が無さそうに大神が呟いた。


「とりあえず用件は伝えたよ。恵太郎くんは僕が責任もって、君と対等に渡り合えるように鍛えておくから楽しみにしておくんだね」



大神はニヤリと笑い、黒いゲートを潜って姿を消した。



「……………………」


後に残された黒斗は彼が消えた場所を見つめ続けている。



(…………いいだろう。竹長が復讐しにくると言うなら、俺がキチンと負の連鎖を断ち切ってやる)


いずれ訪れる恵太郎との対峙を思い、黒斗はデスサイズを強く握り締めるのだった。