意気地ない。
あれだけ啖呵切っといて、それを真っ向から知らん顔するなんて、とてもできない。

(やっぱりここは素直に謝って、『もう一度、働かせて下さい』と頼んだ方が早いかも……)


迷った挙げ句、表の方へ回った。

レトロビルの一階部分。
二階から上は貸アパートだと聞いたことがある。
持ち主の方は年配の男性で、初代館長の頼三さんは、「特別に無料で場所を貸してもらってるんだ…」と話してた。


(代替わりしても、無料のままだったのかなぁ…)

これまでそんなこと、気にしたことなかった。
礼生さんは漫画家もやってて、収入には困らない筈だと思ってたから。


明治時代に建てられたビル。
取り壊しとかになったら、この図書館はどうなるんだろう……。

(そんなことになったら、私はどこで働こう…)

今時は司書なんて人材、どこでも有り余ってる。
大きな書店や図書館で働くより、私はこの小さな空間が好きで働いてた。

今更手離せない。
この場所は、私の大事な居場所ーーーー


9時になった。
そろそろ開館する頃。
きゅっと手を握りしめ、シャッターが上がるのを待つ。
高校以来の感じ。
長期休暇中、部活の前にここに立ち寄るのが日課だった。

頼三さんに会って、ドキドキしながらお話して、オススメの本を教えてもらって借りて帰る。
借りた本を読んだ後、その感想について話し合うのが、あの頃の私の楽しみだった……。

(あの頃は良かったなぁ…何も考えずにここに通えて……)