「まあ、せいぜい頑張って」

「顔だけ必要な部署でなにを頑張れって言うんですか」
と言うと、

「いろいろあるじゃない、ほら。

 エリートの結婚相手を見つけるとか。

 本当に誰かの愛人になるとか。

 女の子はいいよねえ。

 あっという間に偉い人と懇意になって、上から物を言い始めるから」
と克己は言う。

「そうなんですか。

 水沢さんもいろいろ大変なんですね」

「そこで、そう返す?」

 苦笑いした克己は、まあ、なにかわからないことがあったら訊いてよ、と言い、役員室の前で足を止めた。

 こちらを向いて、

「はい。
 服装整えてー。

 息吸ってー、笑顔ー」

 笑顔ー、と言われるまま、にっと笑ってみる。

 こちらを見、

「……まあ、いいか」
と言う。

 まあいいかってなんだ!? と思っている間に、克己はノックしていた。