その日、二人は近くの村で開催された祭りに来ていた。 
りんはいつもよりも念入りに化粧をし、お気に入りの着物とあのかんざしをつけていた。
佐吉もりんの手を握り、堪えきれないというように微笑みを浮かべていた。




二人が屋台を見ていたとき、運悪く佐吉の母がそこを通りがかってしまった。

「…佐吉…っ」

りんはその頃、巷でも段々と人気を集め始めていたため、母もぱっと見ただけで芸子だと分かった。
彼女は許せなかった。
夫のように、息子まで芸子などと恋仲になるのか。
居場所を取られたような気がした。
どうしても、この恋を実らせてはならない。
きっと息子は騙されているのだろう。


彼女はその勢いのままに、二人に詰め寄った。