『あ…っ』


小さくなって、まあるくなった消しゴム

が、人差し指と親指の間からコロンと外

れて、隣りの席の机の下にコロコロと転

がっていった。


隣りの男子は、迷惑そうにそれを拾い上

げると、私の机の上にコロコロと転がし

てきた。


『あ、ごめんね』

「いや」


超クールなその男子は、先月このクラス

に編入してきた如月 琉聖くん。


ソフトリーゼント、細く整えられた眉、

着崩した制服、香水とタバコの匂い。


いわゆる不良だ。


かなりイケメンなのに、不良オーラのせ

いで、モテ度はイマイチ。


『…ん?』


消しゴムまで、香水とタバコの匂いにな

っちゃった。小学生の頃、匂いつき消し

ゴムとか流行ったなあ。バニラとかチョ

コとか、ストロベリーとか。でも、不良

の匂いつき消しゴムは、あまり人気でな

いかも。


とりあえず、この小さな消しゴムは新し

いものに取り替えなくちゃ。


私は、不良の匂いつき消しゴムを、また

転がしてしまうことのないように、慎重

に扱いながらそう思った。