「いや、ミスされても困るから指導はビシバシと行かせてもらうよ」

翼が笑いながら言い返した。

「えーっ…」

思わず嫌な顔をしたあたしに、
「ミスして大輔さんに怒られるのはごめんだから」

翼が答えた。

藤本さんの存在は絶対的なものらしい。

さすが、若頭である。

「じゃあ、まずはお盆を持って」

翼から差し出された銀のお盆を受け取ると、
「こう?」

それを手のひらのうえに乗せた。

「違う違う、利き手じゃない方の手にお盆を乗せるの」

「えっ…あ、ああ…」

何だかもうすでに雲行きが怪しいような気がするよ…。

兄貴よ、怒らないからマジで帰ってこい。

翼のビシバシ指導を受けながら、あたしは心の中で思った。