「生前は…祖父がお世話になりました…」

…頭を深々と下げてお礼を言った。

その方の後頭部を眺めながら、(ああ、そうか…お孫さんなのか…)と、新ためて気づいた。
でも、その時は何も言えず、バッグから借りてた本を取り出し、手渡すのが精一杯で……。

「…確かに受け取りしました…」

お孫さんの顔をまともに見れないまま、図書館を後にした。
外へ出た途端、大粒の雨が降ってきたのかと思うくらい涙が溢れ出し、泣きながら家に帰ったのを思い出す。



……頼三さんの側で、本を読むながら過ごす毎日を夢見てた。
年齢もかけ離れてたけど、大好きな大好きな人だった。

あの人の話す言葉が聞きたかった。
笑ってる顔が見たかった。
病に倒れてる間、私がどんなに心配してたか、話して聞かせたかった。


…でも、もう…何もできない……。


あの人の声を聞くことも。
優しい声で名前を呼んで頂くことも。

本の感想をお話しすることも。
何を借りればいいか、相談することもーーーー



……何もかも…無くなってしまった。
私の中から、頼三さんが消えてしまった…。


思い出も…
返した本と一緒に…
全部…遠くなってしまった……。


「…ひっ…ふっ…ひっ…ぐっ…」

堪えきれずに、道端にしゃがみ込んで泣いた。

大学四年生の…冬の日のことだった…。




……あれから暫く、私はあの図書館へは通わなかった。
行くのが怖くて、寂しくて、やりきれない気持ちばかりが先立ってたから。