背筋がぞくぞくすると共に防衛反応が働いて、次の瞬間、上下の唇に力を入れてがっちり結び、頭をのけ反らせて葉菜が逃げた。

「やっ……! それはやだっていってるでしょ!?」

 抵抗をみせる葉菜の頬をレンは両手で包み込む。
 上向かせ、まつげ、まぶた、額、鼻と顔中にキスの雨を降らせた。いままで誰にもされたことのないキスの嵐に葉菜の思考回路は靄がかかったように働かなくなった。くすぐったいような、気恥ずかしいような不思議な気分になる。
 真綿に包まれたように大事に扱われているといった表現がぴったりかもしれない。
 まるで夢みたい。
 再びレンの唇が口を塞いだとき、葉菜は警戒心を解いていた。薄く開いた唇から舌が入ってくる。抵抗しなくちゃと思う半面、抵抗できない自分がいた。
 滑り込んできた舌は優しく、ときに力強く、葉菜を攻める。
 胸の鼓動は激しく、閉じたまぶたの裏に星が飛んだみたいにチカチカした。ようやく唇が離れると体中の力が抜けた葉菜がよろめき、レンが逞しい腕に抱き留めた。

「お前の口を開かせるのは簡単だな」

 満足そうに笑った。
 体がほてったまましばらく葉菜は動くことができなかった。
 深い口付けのおかげで。
 恋人同士がするはずのキス。レンにとって召し使いなだけの存在の私になぜするの? しかも、うっとりするほど巧みなキスだった。
 そう、もっとしてほしいと思えるような……。
 魅力的で、自信があって誇り高いレン。
 結局、レンの力に逆らえない自分にこの先が不安だ。
 青い目をしたハンサムな悪魔め!


 翌日、国立は学校をやめた。うわさでは教師協会から追放されたとか。
 裏でレンの働きがあったのか問い掛けたところ、はぐらかされた。
 でも絶対レンが絡んでいるのは間違いない。やっぱり彼は敵に回すと怖いということが、今回の一件でよくわかった。
 これからはあまり逆らわないように気をつけよう。


 終わり。