「はぁ……」

 ため息。
 今日は始業式だっていうのに、今朝から出るのは重いため息ばかりだった。
 しかも寝不足で足元がふらつく……。
 昨日あんなことがあった後なのに、ぐっすり眠れるわけないよ。
 ぼーっとする頭で、学校の門をくぐり、声をかけてくる友達らしきひとたちに、何も考えられない真っ白な頭で挨拶を返しながら、下駄箱を通って教室へ向かう。
 普段から登校時間が早くも遅くもない葉菜は、すでに登校した生徒が開け放っていたドアから教室へ入って、

「―――!!」

 真っ先に目の中に飛び込んできた人物に、入り口付近で固まる。
 おかげで真っ白だった頭が妙にすっきりした。
 そうだった。
 学校へ行く=レンがいるということ。
 し、しかも……! 席、隣だった……!!
 葉菜は頭の中で頭を抱える。
 あいつ危険、危険なんだってば!
 
「おはよう! 葉菜。どうしたの入り口で突っ立ってたりして?」

 ちょうど葉菜の後から教室に入ろうとしていたらしい、仲のいい友達の一人、あきがパニック中の葉菜に声をかけてきた。

「う……なんか教室、入りたくなくて」

 そういいながらも、彼女が教室に入るために中へ入ってから脇に避ける。

「あれ、顔色悪くない?」

 覗きこんできたあきが、心配そうにしている。

「う、うん……ちょっと眠れなくて」

「夏休みの宿題の追い込みでもしてたの? せっかくの美人が台無しだよ!」

 始業式まで時間あるから席に座って少し休めば? ありがたいことにそう気遣ってくれた。

 席に近づきたくないんだよ……だから教室に入りたくないのよ。
 そういえないのがもどかしい。