ずっと考えていた。
彼が、お父さんを調べて欲しいと依頼した人は誰なのか。そして、なにを知りたかったのかを。

全くの外部の人の可能性だってある。取引先だってあるだろうし、交友関係もあるだろうし。
でも、あの日、彼はわざわざ自己紹介で三木部長の名前を出した。

そもそも、あんなに堂々とうちの店に出入りできたってことは、誰かが本当にそうできるように手を回したんじゃないの?
だとしたら、やっぱりそれは……三木部長。

だけど、その部長が横領? 解雇って。
探られていたはずの、営業部長であるお父さんの方が怪しいことあったんじゃないの?

きっと、彼はこの件に関わってる。
だけど、その詳細が全くわからない。

……なにをいまさら。
私はあの人に嘘を吐かれてた。裏切られた。利用されてただけ。

もう関係ないんだって、今朝も言い聞かせてたはずでしょう?
彼と会って、一体どうしたいっていうの?

もう、会わない。

それがいいって何度も頭では納得したはずなのに、心がそれを拒否している。

もう一度、会って話をしたい。

本音はそれで、今にもどこか彼のいそうな場所へ駆け出したい。
私が知ってることといえば、彼の連絡先だけ。
名前も、歳も、勤務先も知らない。そんな彼とまた会いたいだなんて、無謀な話だ。
……でも。

更衣室を先に出た私は、誰もいない階段で一縷の望みをかける。
スマホの履歴から、あの登録名を探し、画面に触れた。

『お掛けになった電話は、電波の届かないところにいるか……』

意を決した電話も、見事に打ちのめされる。
私は、無情に流れるガイダンスを聞き流して、力なく階段を下って行った。