どんな顔をしていいかわからなくて顔を逸らした私を、斎藤さんが抱きしめる。
その手は痛いくらいに力が込められていて、さらに私を驚かせた。
彼らしからぬ、小さな声を腕の中で聞く。

「素直だし、異常にひとりで背負い込むし……。痛々しいくらい頑張ってるの見てたら放っておけなくて、守ってやりたくなる」

結果に繋がらない私の頑張りを、たったひとりでも見ていてくれたのなら、それだけで心が救われる。
まして、それが大切な人なら特に。

迷いながら、そっと手を斎藤さんの背中に回してみる。
斎藤さんの身体はどこに触れてもあったかい。

「そう、思ってた俺が、君に守られるなんて。つくづく参るよ、茉莉には」

背中に回されていた手がそっと肩に置かれ、コツンと額同士がぶつかった。
斎藤さんの髪がくすぐったくて、恥ずかしくて、私は上を向くことができない。

「……それはきっと、あなただったから。私に勇気をくれた斎藤さんの、少しでも役に立ちたいっていつも思ってたから」

そう。たとえば、あの場にいたのがあなたじゃなかったら。私はもしかして、微動だにできずに傍観していただけかもしれない。

あなたが助けてくれなかったら……あなたと、出逢ってなかったら――。

伏せていた睫毛を上向きにさせ、額を離した斎藤さんの顔を間近で見つめる。

いつでも、綺麗な漆黒色の瞳をしていて、そのぶれない力強さに救われた。
この短期間のことを、彼の目を見つめて思い返す。

斎藤さんは、スッと左頬に触れてきた。
どちらかが、ほんの少し動けばキスしてしまいそうな距離。その甘く緊張する距離感に、胸を高鳴らせていた。

すると、彼は急に目を伏せて私から手を放す。

「俺の役に立とうなんて考えなくてもいい」

その言葉と声は、ひどく冷たく感じた。
一瞬で凍り付く私にかまうことなく、斎藤さんはフロントガラスを見るように身体を戻すと、ギアに手を乗せた。