私と違って、やっぱり涼しい顔で言い退ける彼女は、本当に観察力がすごいなぁと感心する。
悪く言えば冷たい印象も与えないこともないのだろうけど、この仕事を一緒にやっていて、少しずつ東雲さんの長所が目についてきた。

彼女は、察する能力が高いから、お客さんの要望をすぐにわかってあげられることが多い気がする。
お年寄りが説明するときにはよく『あれ』とかって抽象的な言葉でしか表現されないけど、それをすんなり理解したり。

私はどちらかといえば逆で、お客さんの話を最後まで聞いてから反応してるから、相手によっては時間のロスになるよね。

どうやったら冷静沈着で、そういうふうに一言えば十わかる、みたいな感じになれるのかな。

「あ。そんな話してたら、もう上がりの時間ですよ」
「えっ。あ、ほんとだ」
「楽しんできてくださいね」
「だ、だから、違うって……」

東雲さんは私の言い分を聞き流すように、新たに寄ってきたお客さんに笑顔を向ける。
少し長くなりそうな接客だったから、そのまま誤解を解くことをせずに仕事を切り上げた。

社員通路に入ると、いつもホッとする。
いつ声を掛けられるかという緊張感から解き放たれるからだ。

エレベーター前の壁に寄りかかり、私物バッグから携帯を取り出す。
カチッとホームボタンを一度押して画面を見ると、目を逸らすように素早く携帯をしまった。

着替え終えて更衣室を出ると、外はまだ明るかった。
ラストまでだと、当然夜になって窓から見える空は真っ暗だ。

久々の早番の帰宅は、いつもならもっと心が軽くなってうきうきとしてるはず。
どこかでお茶でも飲んで帰ろうか、とか、ショップを見て回ろうか、とか。

だけど、どうしてもそういう気分にはなれない。
どこかへ寄り道するくらいなら、一刻も早く帰って布団にもぐりたい。

……本当は、誰かと一緒にいたい。