斎藤さんは田中さんのことをそう言っていた。
確かに、彼女も斎藤さんに頼まれたと言ってたし、近しい間柄なのは間違いない。

でも、それって、本当に〝仕事仲間〟ってだけなのかな?
だって、見知らぬ部屋で、男を相手にするって簡単に引き受けられる内容じゃないよね?
それも、多分、斎藤さんから広海くんが暴力振るう人だって聞いてたんだろうし。

そんな危険を冒してまで、同僚の頼み聞いたりする?
もしかして、斎藤さんは違っても、田中さんは彼に特別な感情を抱いていて断れなかったとかじゃ……。

そんなことまで妄想すると、胸が嫌な音を上げた。

『助けたかった』

目を閉じたら、斎藤さんの声が聞こえてくる。

その言葉の真意ってなんですか……?
私に『見て欲しい』ってどういう意味で言ったんですか?

斎藤さん……私、全然あなたのことがわかりません。

だけど、ただひとつわかるのは――。

「……ヤキモチ」

東雲さんの時と同じ……ううん、それ以上の田中さんに対しての嫉妬。
私を助けてくれるヒーローが、別の誰かを助けるのが嫌っていうだけなのか……それとも。

薄らと口を開いて、その先をひとりきりの部屋で零す直前、もうひとりの自分がブレーキを掛ける。
……今、言葉を飲み込んだところで気持ちまで飲み込むことはできないのに。
押さえこまれた方の自分が胸の中で漏らすのを気づかないフリをして、私は吸い込まれるようにるう眠りについた。

久方ぶりの安眠は、どの理由がきいてのことだったのだろう。

ベッドの上の携帯が、何度も音を上げていたのも気が付かず、私は朝まで深く意識を閉ざしていた。