「ふー、危なかった」



汗なんてかいてないのに、額を拭うフリを見せる大げさな瀬戸。


いや、見られてたらって思うと大げさなんかじゃないかもしれないけど。



「ねぇ、手紙やめない?」

「はぁ? またかよ」



毒でも吐き出すみたいな顔で噛み付く。



「そうじゃなくって、教室で読むのはやめない?」



本当は手紙もやめたいけど。


あえてそれは言わないでおこう。



「今回みたいに他の人に読まれたり見られたら面倒じゃん。それに変な噂になるのもやだし」

「……まぁ、な」

「手紙は今日みたいに下足箱に入れる事にして、読むのは学校外にしよう。教室は人目が多すぎる」

「んー……、まぁそうだな」



話がついたところであたしは再び寝る体勢に入った。


そしたらちょうど授業開始のチャイムが流れて、心の中で舌打ちしながらそのまま一時間目は寝潰そうと心の決めた。

ちょうどそんな時、



「けど……やめるっていうのだけは無しだかんな」



そんなセリフが聞こえたけど、それは聞こえないフリして腕の中に顔を埋めた。

代わりに、



「お菓子、楽しみにしてるから」



寝言を囁くようにそう言った。


きっと今頃、前を向いて授業の準備をしている瀬戸の耳に届いたかどうかはわからないけれど。