「……抜ける理由にあの人は関係ない。あたしが抜けたいと思ったから抜けるの」



痛む心を抑えながら、十夜の目を真っ直ぐ見つめてそう言う。



だけど……。



「駄目だ」


「なんで!?」


「駄目だ」


「だから……」


「ぜってぇ許さねぇ」



鋭さが増した双眸に何も言えなくなる。



煌の言ってた通りだ。


十夜は認めてくれない。



でも──



「何を言われても抜けるから」



あたしは、抜けなきゃいけないの。






バイクを挟んで睨み合うあたし達。


もう、周囲のざわめきなんて聞こえなくて。



「諦めろ」



十夜の声だけが鮮明に響いた。




……なんで、


なんで抜けさせてくれないの?



抜けさせてくれないとあたし……。



「やだっ!」


「許さねぇって言ってんだろ!!」


「……っ許してくれないならそれでもいい!勝手に抜けるから!」



初めて聞く十夜の怒鳴り声に一瞬怯んだけど、自分の意思を貫き通した。


言うだけ言ってその場から駆け出す。



「凛音!!」



背後から十夜の叫び声が聞えたけど止まらない。


振り返る事もしない。



振り返ったら駄目。


そう自分に言い聞かせて、行き交う人混みの中に紛れ込んだ。