「大丈夫、なの?」



込み上げる涙をグッと堪えながら、十夜に聞こえないようそう問い掛ける。


すると煌は、



「一度もこっち見なかったから気付いてなかったみたいだな」



そう言って、「大丈夫だ」とクシャリ、あたしの頭を撫でた。






──違う。


違うよ、煌。



貴兄は気付いてた。


十夜達の視線に気付いてたよ。



だって、あの殺気混じりの視線を貴兄が気付かないなんて有り得ないもの。


貴兄は気付いてて知らん振りをしたんだ。


何故そうしたのかはあたしには分からないけど。











煌が言った事は事実だった。


煌が嘘をつく訳がないと分かっていたけど、どうしても信じたくなかった。


けど、全て事実だった。




十夜は貴兄を、獅鷹を恨んでる。


あの視線が、あたしを背中に隠したという事が恨んでいると言っていた。




今の光景を見る前までは獅鷹総長の妹だとバレても許してくれるかもしれないと思っていた。


けど、今ではもうそんな考えなんて無いに等しい。


だって、あんな目初めて見たから。



あの視線を見てしまった以上、あたしは十夜達と一緒に居る訳にはいかない。



ううん。居ちゃいけない。




だからあたしは、鳳皇と離れる決意した。