「このチーズケーキを手土産にしようと思ってきたのに、どうしてくれるのよ。先方との約束の日にちは変えられないのに!」

そんなことを言われても。
見出し文句の隣に、そこそこ大きな文字で開催期間は打ち出されているし、もう少し確認してくれてもいいのに。

「大変申し訳ございません。今後、改善して参りますので……」
「今後じゃ遅いのよ! もう! 時間だけ無駄につかっちゃったわ!」

バサッとチラシを投げ渡された私は、深く下げていた頭をゆっくりと上げる。
その女性は私に言いたいことを言い終えたようで、そのまま外へ出てしまった。

しわしわのチラシに視線を落とすと、明日から開催される〝北海道うまいもの市〟という文字が書いている。

……確かに、今日のチラシだからそう思うのかも。でも、裏面だし……。
チーズケーキなら、ここの店内にはないけど、近くに人気のお店があったのにな。教えてあげたらよかったかな。

去って行った出口を見つめていると、隣にいた先輩社員に声を掛けられる。

「あのくらいの年代の人って、なんで余裕のない人が多いんだろうね。ただの八つ当たりじゃない。ねぇ?」

私よりも3年長くこの仕事に就いてる先輩の愚痴を苦笑して聞いていると、横から「すみません」と聞こえてきた。
振り向くと年輩の女性が、3歳くらいの女の子と立っている。

「はい。いらっしゃいませ」
「この子、迷子みたいでね。そこの通路で泣いてるものだから」
「そうだったんですね。ご親切にありがとうございました」
「いえ。じゃあ後はお願いします。お母さん来てくれるから、泣かないでね。バイバイ」

優しい声で目尻を下げて手を振る女性に私は頭を下げてから、迷子の女の子と同じ視線になるように膝を折った。