「……いたいんだってばあああ゛あ゛!!!!」

喉がはちきれんばかりの大声を上げて、母親が父親を押し倒した。



「うわーー!! 殺されるー!! わー、わー、助けてくれー!」

揉み合いながら父親も狂ったように叫び出す。



「…………」


それを見ていた少女は、部屋の隅で踞った。


―もう耐えられない

―逃げたい、逃げたい

―この地獄から出ていきたい


震える指で携帯を取りだし、『110』と番号を打ち込んだ。



「……もし、もし。助けて……おとう、さんが、おかあさんを……殴って…」


この後、どうなるか少女は考えていなかった。


ただ父親と離れたいと、母親と2人で暮らしたいと、その思いしか無かった。