「まだ相手側から正式に話は上がってはおりません。ただ加藤がうちの会社に入り込んでいたと言う事は、何らかの目的があったからではないかと思います。」


「何らかの目的………」


「極秘に有力な情報を得る為や、後はあなたを上手く取り込んで今回の話を強引に進めようとしたりとか。」


「私を………取り、込んで……」


「あなたと加藤の関係が上手く行けば当然、有利に話を進めることが出来ます。会長も唯一の孫娘であるあなたには弱いですから。」


「つまり……彼は最初からそのつもりでうちの会社に入り私に近付いたという事ですか?」


「恐らくは。彼をいざという時の切り札にしたかったのではないでしょうか。僕はあなたと加藤がどのような関係だったのか分かりません。ただ加藤の中で何か予定が狂ってきたのかもしれません。現に彼は休職届けを出し姿を消しましたので。」


「姿を消した………。それって会社を辞めるつもりですか?」


「どういうつもりかは分かりませんが……まだ辞表は出していないようです。もしかすると、あなたに近々コンタクト取ってくるかもしれません。」














樋山さんは最後にこう言った。


「何かあればいつでも言ってください。一人で抱え込まないで。」


私は一つ頷くと漸く樋山さんの車から降りた。