ケータイ小説 野いちご

暫定彼氏〜本気にさせないで〜

陽日が帰ると急に部屋が静かになった。


「本当にご飯だけ食べて帰ったね。変な子。」


そっと、唇に触れてみる。


陽日の熱がまだ残ってる気がする。


「キス……しちゃった。」


一応、付き合ってるからいいのか?


暫定彼氏だけど。


だけど、私は陽日の事をまだよく知らない。


私が知っているのはーーー


仕事も出来て人当たりも良くて、見た目も勿論、申し分なくて。


だけど実は結構、意地悪で腹黒い。


後は……卵焼きはだし巻きが好きで、甘い味のおかずが嫌いで……


とっても美味しそうにご飯を食べてくれる。


それくらいのことしかまだ分かっていない。


あっ、トランプが上手いってのも今、知ったか。


だけど……


それだけじゃない、知ってしまったのは……


あの日遊園地で見た心細そうな陽日だ。


あんな様子の彼を見て、きっと彼はその笑顔の下に人には見せない何かを抱えているんじゃないかなって。


いつだって彼の周りには人だかりがあって賑やかだけど、本当は何かが欠けているんじゃないかって。


彼自身、それを人に知られない為にもあの笑顔を常に絶やさないんじゃないかなって。


あの日、陽日を抱き寄せた時にそう思った。


そして、今日、愛しげに私に何度も唇を重ね、熱のこもったキスを陽日から受けた。


とても優しいキスだった。


だから拒むことは出来なかった。


確かに陽日の気持ちが伝わってきたから。


と同時にどこからともなく感じるあの切なさは一体何なんだろう。


やはり私はまた思う。


彼には何かある。


その足りない何かを私は埋めてあげてることが出来るのかな。


明らかに私の中で陽日の存在が占めてきていることを認めつつあった。






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