この子、確か私より4つ下とかじゃなかったっけ?


だけど最初からうちの会社に居たって記憶がないのよねぇ。


何年か前に急に社内にイケメンがいるって話題になったのは何となく覚えているけど。


中途採用とか?


この若さで?


いつからうちにいたっけかなぁ。


んー、思い出せないや。


私がぼんやりとした記憶を辿っていると


「あの……突然過ぎましたよね。」


と、いつもよりは若干困り顔ながらも実に穏やかに聞いてくる。


まるで今日は生憎の雨ですね、とでも言うような顔で。


「そうね……突然だし、こんな所だし。」


そう、こんな所とは会社内にある非常階段の踊り場。


ちなみにうちの会社は生活用品の企画から製造、販売まで全て自社で行っていて、取り扱う商品は様々。


生活雑貨からペット関連商品まで実に幅広い。


現、会長である創始者が始めた小さな個人商店だったのが今では自社ビルを持つ立派な上場企業だ。


他にも様々な事業を手掛けていて、一応うちの会社がその大きな組織のトップという事になる。


それで何で非常階段かと言うと私は丁度、一つ上の階にある販売促進部に用があって非常階段にて向かう所だった。


わざわざ階段なんて……とか誰も言わない。


昨今の流れで社内でも省エネ省エネと何かにつけて唱っていて、ワンフロアー移動くらいではとてもじゃないけどエレベーターを使う雰囲気ではないのだ。


まぁ、多少ながらも運動不足解消にもなるしね。


ダイエットも兼ねて少し駆け足で踊り場までの階段を登りきったら彼がいたので、ほんの少し息を整えてから


「お疲れ様です。」


と、社内イチの人気者、加藤 陽日(かとう はるひ)に声を掛けたのだ。