さくらは、どこか空中を見つめながら静かに口を開いた。


「私は紀一さんに、もっとひどいことをされると思っていました。」

紀一は、黙ってさくらの言葉に耳を傾けた。

「私は施設にいたとき、今みたいに勉強なんてさせて貰えなかったし、毎日ただ、外見を磨かされて、いつか自分を買ってくれる人に気に入られる為の教育しかされていませんでした。」

そして名前もないまま、毎日をただ、ぼんやりと過ごしていたと、さくらは語った。

「私は、もしも誰かに買われて、外の世界を見れて、それがもしも本当にひどい世界なら…」

紀一が、テレビを消して静かに語るさくらの側に近寄る。

「死のうと思っていました。」

力強く、噛み締めるような言葉。
紀一は強くさくらを見つめ返して聞いた。

「そして?君は今もそう思っているのか?」

「…あなたと出会ったときに…。」

さくらの目線が、紀一から外れる。

「私を買う人は、きっと太っていてお金持ちそうで、嫌な感じの人だと思っていたのに、全然違って。」

申し訳なさそうにするさくらに「かまわない。」と言って紀一は次の言葉を待った。

「あなたは、痩せていて、全然元気じゃなくて、私なんかに興味なさそうで、私、正直困りました。」

そこでお互い、顔を見合わせて微笑んだ。