先輩についていって、たどり着いたのはひと気の少ない階段の、踊り場。

先輩は私に向き直ると、あくまで無表情に、「あのさ」と言った。



「今朝のことは、忘れて」



....え。


頭から冷たいものを被せられたみたいに、フッと体温が下がった。

思わずうつむいた私に、先輩は焦ったような顔をする。


「いや、えっと...君も、迷惑だったでしょ。いきなり初対面の奴からあんなこと言われて...」

「...そんな、こと」


そりゃ驚きはしたけど。

迷惑とか、そんなの...あり得ない。


先輩は困ったように眉を下げて、「でも君、困ってたじゃん」と言った。


「...僕も、勢いで言っちゃっただけだから。ごめん、困らせて。...忘れて」


その声色は、なんだか寂しそうで。

私は先輩を傷つけちゃったんだなって、思った。