「あたしも……あたしも一目ぼれだった。でも、カジ君に彼女いるって思ってたから、諦めなきゃ……ってそう思ってた」


「そか。ごめんな……」


カジ君はあたしの腕をつかんでそっと引き寄せた。

そして髪を優しく撫でる。


「エリさんとのこと、なんか中途半端な状態だったから……。ホントの気持ち、言い出せなかったんだ」


カジ君はあたしの両頬を包み込むようして、顔を上げさせた。


キスされるんだ。

そう思って目を閉じたら、カジ君の唇がそっと触れた。



――コホンッ


入り口の方から咳払いが聞こえて、あたし達はあわてて体を離した。


いつの間に戻ってきたのか、お兄さんがニヤニヤしながらこちらを見てる。


「行くぞ」


カジ君はお兄さんを無視して、あたしの手を取って歩き出した。


前を通りすぎる時、お兄さんはあたし達をからかうように言った。


「またさっきのヤラシイことの続きすんのー?」って。


その途端、ボンッて火がついたみたいに顔が熱くなる。


お兄さん……やっぱり。


「お前、やっぱ覗いてたのかよ――?」


カジ君の悲痛な叫び声が廊下に響き渡ってた。


こんなお兄さんがいる彼に、ホント同情しちゃう。


ご愁傷様。