「一之瀬くん」


彼の名前を呼んで
私は、すぅっと息を吸い込んだ



「好きな人の好きな人なんて
 気にしてたら、なんにも変わらない

 本当に好きなら…

 
 必死で奪わなきゃ」




私は、逃げちゃったけど
一之瀬くんには、幸せになってほしい


必死につかまえて

必死で奪わなきゃ





「…それに、

 そんなに好きなら
 きっと、相手にも伝わってるよ」



佳奈さんも、分かってる

きっと、伝わってるよ








そして、少しの沈黙のあと



「…俺、伝えてくる」




ガタ、と席をたつと一之瀬くんは言った


その目は、
迷いのない真っ直ぐな色だった




「うん、いってらっしゃい」


私は、微笑んで
教室を出ていく一之瀬くんを見送る





一之瀬くん、幸せになって…



そう、願いを込めて…