トクン、


人気のない廊下に
私の胸の鼓動だけが聞こえる




資料室の前で、私は立ち止まった


中から声がする…



まだ、お取り込み中かな…



そっと壁にもたれて
女の子が出るのを待っていると



「…これ、今日パウンドケーキを
 作ったから、受け取ってほしいの」


資料室の中から、
女の子の声がはっきりと聞こえた



ど、どうしよう…


聞いちゃいけないよね…っ



慌てて、場所から離れようと
足を踏み出すと





「…ごめん…」




一之瀬くんの声が聞こえた





「俺、好きな人がいるから受け取れない」



はっきりと告げる一之瀬くんの声が
静かな資料室に響く




トクン

トクン…、



…え…?

私は、思わず足を止める







「…だから、ごめん」


もう一度はっきりと聞こえる
一之瀬くんの言葉に




私は、その場から走り出した