「暗いな」


僕はそう言ってカーテンを開けた。


空には分厚いグレーの雲が立ち込め、小雨をぱらつかせている。


「雨の日曜日だね」

となりに立った桜子が、窓ガラスに手をついてつぶやく。


「……こんな日曜の午後は、どこにも出かけずに部屋の中でゆっくりするのがいいよね」

「そうだな」

「ねえ」

「ん?」


僕はガラスに映った桜子の顔を見た。


表情の読めないその顔は、まるで肖像画のようなたたずまいで、窓枠の中におさまっていた。


「もし、良かったら……」

と桜子が言った。

「話してくれない?
拓人がこの家ですごした、子供の頃のことを」


雨が、強さを増した。


葉っぱが落ちて裸になった木々の間を、ひゅうっと風が通り抜け、

そのするどい音が部屋の中まで届いた。



“この家ですごした、子供の頃の話”――



誰かに話すことなど、ないと思っていた。


なのに、なぜだろう。


「いいよ」

僕の唇は動き始める。


「ぜんぶ、話すよ。……聞いてほしいんだ」


窓ガラスに当たった雨粒が、そこに映る僕の頬を、涙のように流れていく。





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