「すいません、新宿駅まで」


 雷也が前に座り、オレは助手席の後ろで愛梨は運転席の後ろ。


 オレと愛梨は隣同士で座った。愛梨はすぐに窓の外を見て、オレの方を見ようともしない。


 車内は無言に包まれた。


 雷也は一瞬オレではなく、愛梨を見て、唇を噛んだ。どうしてだ、どうして二人とも『肝心な事』を伝えないんだ…?


 
 愛梨は寝てしまったようで、力が抜け後部座席の真ん中に左手を放り出した。


 オレと指先が当たり、少しだけ……手を重ねた。


 愛梨は気づいたようで、小指だけ動かす。雷也は見ているはずだが、止めない。

 
 むしろ、雷也はオレにもっとやれと言っているようだった。どういうことか…さっぱりわからない。


 首都高を進み、新宿への青看板が見えてきた。


 オレも少しだけ仮眠を取る。


 いまや小指だけではなく、その細長い五指を絡めてきた愛梨と手を繋いだまま。


「はい、どうも」


 雷也が万札を2枚出してつり銭を貰った。


 普段のオレ達には縁の無い光景だが、もう見慣れてきたな。


 愛梨はタクシーから降りて大きく背伸びをした。