「いえ…何が言いたいのか…」


「ぜひ、瀬戸さんからも彼の背中を押してあげられないかと思いまして」


「私にはそんな説得力ありません…」


全身が、震える。どうして、こんなに障害が振りかかってくるのか。


「どうか、彼には選択を誤らないでもらいたいんです。松井が好きだと言うのなら、尚更あなたの助けが必要です。彼は…」



「……?」


「いや…彼は私の可愛い教え子でもありますから」


梶井さんが帰った後も、私はそのまま暫く動くことができなかった。

俊介がドイツに行ってしまったら…



きっともう、私には待つ事も一緒に行く事もできない。

ただの自分の片想いだから。

会えなくなってしまうのに、彼の背中を押すなんて苦しすぎる。


でも彼の為に…


すっかり冷めてしまったコーヒーを最後に一口飲んで、喉を潤した私は静かに帰路についた。




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