「それじゃ、また学校で」


 恭也はそう言って、電話を切ろうとする。


 が、聞こえた慶の声にその手を止めて耳を澄ます。


 よく聞かなきゃわからないくらいの震えた慶の声。


『……お互い、抜け駆けはなしな』


 どことなく苦しそうな慶の声に疑問を抱きつつも短く了承の返事をすれば、『おやすみ』の声。


 電話が切れたことを告げる、断続音。


 急激に迫る眠気の所為で、慶が苦しそうだった理由を考えることもなく、恭也は眠りについたのだった。


 案の定目覚ましの音で起きられないほどの睡眠に落ちた恭也と慶は、翌日当たり前のように遅刻をしたわけで。


 ふたりはいつもより遅い電車の中、いるはずのない好きな彼女の姿を探すのだった。


                       【end】