僕は彼女のむき出しの肩に、布団をかけてあげながら言った。


「なあ、出勤前に一度自宅に帰って着替えた方がよくない?」

「……どうして?」

「だって、昨日俺と一緒に飲みに行ったの、知ってる子がいるかもしれないし。
さすがに昨日と同じ服はやばいでしょ」


諭すように言うと、えみりちゃんはふてくされたような表情で、僕の胸元に顔をすり寄せた。


「やだ。もうちょっと一緒にいたい」

「バレたら俺がクビになるよ」

「大丈夫だって」


上目づかいで駄々をこねる彼女は、化粧を落としているせいか、店で見るよりずっと幼く見えた。


実際に、えみりちゃんは若い。


18歳。

僕より2つ年下。



昨夜の焼き鳥屋のカウンターで、
彼女は自分にまつわるいくつかのことを話してくれた。



『私、本当はまだ高校に通ってる年齢なの。
入学してすぐに中退したから、みんなより早く働き始めたけど、
本当なら今頃高校三年生』


そう言って彼女は、飲み慣れないアルコールで赤くなった頬を、ゆるめて笑った。


どうして中退したのか。

どうして風俗の世界に来たのか。


そんなことは一切語らなかったし、僕も訊かなかった。


ただ目の前で焼けてゆく肉の、したたる脂をぼんやりと見ていた。