翌日、近所の集会所で通夜がとり行われた。


雨雲が夜空を気ままに漂い、月明かりの届かない夜だった。



焼香を済ませ、裏口から出たところを、
遠慮がちな小さい声に呼び止められた。


「拓人くん?」

「……はい」

「ああ、やっぱり。久しぶりね。覚えてる?」


話しかけてきたのは初老の、ふっくらとした女性だった。


誰だっけ?

一瞬考えて、子供の頃お世話になった近所のおばさんだと思い出した。


「こんなに大きくなって……何年ぶりかしら」

「10年です。中学に上がる前に両親が離婚しましたから」

「そう、そんなに経つのね」


今日はお母さんは?

と、彼女が周りをキョロキョロ見回しながら訊いた。


「昨年他界しました」

「まあ……」