一分一秒が長く感じて、ただ座って待っていることなんてできなくて。


 いつもより少し早く脈打つ鼓動を感じながら、席を立つ。


 なんか飲んで気分を落ち着けよう、なんて思って。


 待合室から出ると、むわっと全身を襲う熱気。


 さすが夏だ。セミもうるさい。暑い。


 だけど、こんなふうにしみじみと思うのもなんだか久しぶりだなと思う。


 大学の講義や課題、サークル活動にバイト。


 毎日忙しなく動き回っていたからか、夏の暑さを感じる暇もなかった。


 近くの自動販売機、いつもの癖でスポーツ飲料を買う。


 ついでに彼女の分も、と思うけど。


「そういえば、何が好きなんだ……?」


 思えば俺は、彼女の好きなもの、嫌いなもの、ほとんど何も知らない。


 赤い自動販売機の前に、呆然と立つことしかできなかった。