やがて叔父が低い声で、困ったように話し始めた。


「いや、けど……、いくら縁が切れていても、父親であることには変わりないんじゃないか?」

「……」

「なあ、拓人?」


受話器ごしのしゃがれた声にそう呼ばれ、僕は思わず苦笑する。


拓人、と下の名前で僕を呼ぶのは、最近では夜を共にする女の子くらいだから。


しばらく黙ったままでいると、叔父は

「まあ、とにかく急いで東京に戻ってこいよ」

と言って、返事も聞かずに切った。



……どうやら、やっかいな電話に出てしまったようだ。


受話器を置きながら、後悔のため息をつく。



記憶の中ではいつも怒鳴っている父。


10年間、連絡のひとつもよこさなかった父。



そんな男のために、東京へ?




――と言うのが、今朝の僕の出来事。


そして僕は今、東京のとある病院の駐車場で、首をひねっている。


どうしてだろう?

どうしてぼくは、こんな所まで車を走らせてきたのだろう?


「拓人ってけっこうお人好しな所があるわよね」

と、一度だけ寝た女の子が言っていたけれど、

断じてそんなことはないと信じたい。