『なんで俺の名前、知ってんの?』

『え!?えーと……その、ゆ、有名人ですから!』

『有名?』

『そっそうです!派手な髪の毛と、ボーッとしてて、かっこよくて!』



必死な言い訳は、わたしが彼を想っていることをさとられないためのもの。

言い訳をしてもこんなに必死に言いつくろうような態度ではバレてしまうかも、そうも思ったけれど、シローせんぱいはボーッとわたしの顔を見て小さく笑った。




『かっこいいって……本人に言っちゃう?』

『え!?あっはい!かっこいいです!』

『ぶっ、なにそれ』



おかしそうに笑う顔。それはあの日と変わらなくて、安心した。



『2年?』

『は、はい!2年A組の町田絵菜と申します!』

『うん、初めまして。2年A組の町田絵菜さん』



『初めまして』、その一言であの日のことを覚えていないのだと気付いた時、少しショックだった。

あの日のことをひたすら、覚えていたのはわたしだけ。恋に落ちたのも、思い出を大切にしていたのも、わたしだけ。



だけど、それならここから始めればいい。

『初めまして』から、いつか『スキ』にたどり着けばいい。