「死ぬことは易い。そして生き続けることは想像を絶する程困難だ。敢えて……」

「いい加減にしてくれ! あんたは、何の権利があって僕の邪魔をするんだっ!」

 何の権利?

 だが、少年を思いとどまらせないと、今の私の存在がいなくなるのだ。権利? 権利というなら、私は自分の生きる権利を主張したいのだ。この少年は、いずれきっと成功するのだ。そう、今の私のように。そんな一時の思いで、未来を裁たないでくれ。

「君に夢も希望も未来に対する期待すらも無いのは知っている。だが――」

「いい加減にしてくれっ! ああ、確かに僕は死にたいと思っているし、今日それを実行するためにここに来た。確かに今の生活にも未来にも何の希望も 夢も持っていない。しかし、それがあんたに何の関係があると言うんだ! 放っておいてくれ。僕はあんたのくだらない忠告などに数分耳を貸すのすら汚らわしいと思う。もしも、自分の前で人が死ぬのが嫌なのだと言うのなら、今すぐここを立ち去ればいい。そして僕のことなど忘れればいい」

 少年は崖上の手摺りを背に、顔を紅潮させながらひたすらに怒りを露にした。

 しかし、ここで引く訳にはいかないのだ。これには私の命すらかかっているのだから!

「しかし、君は、本当に成功するんだ! 閑静な住宅地を見下ろす小高い丘の立派な家、円満な家庭、地位、名誉、全てが遠くない未来に君のものになる! だから―――」

 今にも崖へと飛び込んでしまいそうな勢いの少年をとにかく思い止まらせようと、気がつくと私は叫んでいた。

「僕の言葉が、聞こえていなかったのか。僕は今にも未来にも何の夢も希望も抱いていない。あんたがさっき言ったように一切の期待をしていない。地位とか名誉とか、そんなものに何の価値を見いだすと言うのか」

 少年の侮蔑の視線が私の心を射抜く。