自分の口から出る言葉と過去耳にした言葉が脳内で二重奏を奏でた。

 ああ、そうだ。あの人は、確かにそう言ったのだ。

 しかし、目の前の少年は答えない。仕方なしに、「おい、君」と私は少年を何度も呼ぶ。


「それは、僕の事ですか?」


 数度の呼びかけの後、ようやく応えた少年の声音は私の想像以上に険しかった。もしかするとそれは些細な事でしかないのかもしれないが、何度も少年を呼んだ事と合わさり私の胸には幾分かの違和感が浮かんだ。

「そうだとも」

 強く頷く私に少年は怪訝そうな表情を隠そうともしない。

「どうだい。下には何が見える」

 無視を決め込もうとしたらしい少年に、私はその少年の心の内を知っているという優越感から、そんな風に言葉を続けた。

「……深い闇の中にちらほら灯りが見えますね」

 長い沈黙の後、少年は答えた。懐かしい、どれだけの昔にか、自分の言った台詞がまざまざと脳裏に浮かび、思わず笑みが漏れる。

「闇と灯りか。……ふむ」

 自分の言葉を反芻しながら私はしきりに頷く。

 そう。あの時、あの人もそうしていた。そして、次の台詞はどうだったか。

「相当煮詰まっているようだね、君は」

 振り返った少年の何とも憎々しげな表情に私はまたもや、楽しくなる。

「……何ですって?」

「随分と、自分の痛みに酔っているようだと、そう言ったのだよ」

 ここまでは、若干の違和感を感じつつも確かに私の経験通りだった。違和感は、当時と今の配役の違いによるものだろうとしか思えなかった。しかし、事はそのまま、穏便には進まなかった。続くはずの私の次の台詞はなく、彼の次の言葉は私の予想とことごとく異なっていたのだ。