「君は社会的成功と心理的充足を手に入れる」


 あの時、言われた言葉の意味が、今なら理解できるような気がする。社会的成功だけではない、心理的充足の意味が。

 人は皆、心の底で、誰かに認められたいと願っているのだ。無条件に肯定された者が一番強く、条件付きで受け入れられた者はその条件に必死でしがみつく。誰もが、誰かに受け入れられる事で、自らの存在意義を見出しているのだ。

 暮れゆく町に点る灯りが、遠く眼下に見えた。

 あの人の問いかけに、まだ幼かった自分は闇と灯りが見えると、そう言った。

 全ての発端は闇なのだ。闇の上に灯りが重なる。

 しかし私にはいまや、暗い闇の部分は、まだ灯されていない灯りとしてしか認識できなかった。

 おそらく、それが年を取るということなのだ。


 ふと目の端に少年の背中が飛び込んできた。

 絶望に駆られて、崖から身を躍り出さんばかりに身体を乗り出す、若き日の私の背中が。

 ああ、そうか。なるほど、あれは……あの人は、未来から来た自分だったのか。全身が不思議な納得感で満たされた。

 私は、これから彼と話をするのだ。絶望の底にいる彼と話をし、彼を正しい道に導くのだ。そのために、私は今日、導かれるように外に出たのだ。ただ彼に会うために。

 そして私は、その背中に語りかけた。


「少年――下に何が見えるかね?」