今のお岩さんは、あの時とあたしと同じだ。


じー様と永世おばあ様の因縁を知ってしまった、あの時のあたしと。



心から信じきっていた人に、何の前触れもなく突然に裏切られて。


確かなもの全部が、足元からガラガラと音をたてて崩れ去った。


じー様の、家族やあたしへの愛情とか信頼とか。


あたしと門川君との関係とか。


あたし自身の、この世に存在する価値まで。


なにもかも確信できる全てが、幻のように消滅してしまった。


あの孤独。あの絶望。あの苦しみ。


あんな思いを、お岩さんが今まさに味わっている。



打ちひしがれるお岩さんの姿が、あたしの涙で霞んで見える。


あたしは、お岩さんになんにもしてあげられない。


おそらくは、あたしが一番あなたの気持ちを理解してあげられるのに・・・。


なのに、なにも、なにも・・・・・・。


・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・いや。


違うっ。



あたしは、ズズゥ!っと盛大に鼻を啜った。


そしてゴシゴシと腕で強く目をこする。


おい、あたし。泣いてる場合じゃないだろが。


なにが、『なんにもしてあげられない~』 よ。


・・・・・・『する』んだ。


なんとかする。してみせる。絶対、する。


諦めないって、さっき自分で誓ったばかりでしょ?


なのに舌の根も乾かないうちに、なにノンキに鼻水ダラダラたらしてんのよ、あたしは。


そんなヒマないっつーの!